第113話

ラノックとの通話を終えた恭弥は、すぐに黒川に連絡を入れた。

ゴルフの日時を伝えると、今度は京極に連絡した。

同じくゴルフの日程を伝え、電話を切る。

ふたたび懸垂運動に励もうとした矢先、ダエルが近づいてきた。

おもむろに、恭弥から尋ねる。

「戦場にいた頃の自分に対して、今の戦闘能力はどのくらいだ?」

ダエルは腕組みしながら答えた。

「自分なりに鍛えてたんで、60〜70%ってとこっすね」

「ゴルフ場は警護がむずかしいからな。100%の力がいるかもしれん」

帰宅の途につく恭弥に、一本の連絡が入った。

知らない番号を見て、これまで出会ってきた強敵たちの顔が浮かぶ。

シャフランに首斬り屋、2人組のスパイなど。

受信すると、相手は椎名と名乗った。

椎名愛子だ。

ほっと息をついた恭弥は、「問題でも起きたか?」と尋ねた。

「台本の読み合わせがあるので、連絡しました」

「そうか、頑張れよ」

自宅のベッドに腰掛ける愛子は、思い切って頼み事を切り出した。

「あの、代表。読み合わせのとき、見学に来てもらえませんか?」

理由を尋ねる恭弥に、愛子は答える。

「有名な方が来られるので、緊張しちゃいそうで…。でも代表が見ていてくれると大丈夫な気がするんです」

「わかった」

愛子は最後に、自分から恭弥に連絡したことはミシェルには内緒にしてください、と頼んできた。

恭弥はとくに理由も聞かず、すんなりOKした。

電話を切ると、恭弥は思う。

面倒な生き物だな、女ってのは…

恭弥が帰宅すると、コーヒータイム中の両親がいた。

「おかえり」と言う父に対し、母はなぜか、心ここに在らずの様子だ。

父いわく、出先でいろいろあって、母は今ちょっと放心状態らしい。

少しして食事時になると、父から切り出してきた。

「長官と会ってきた。来週までには財団の問題を解決してくれるそうだ。お前がこの国の経済成長に貢献したとも聞いたぞ」

恭弥がはにかみながら謙遜すると、今度は母が尋ねてきた。

「特例入学の話は聞いてるの?」

「えっと、そんな話もあったような…」

恭弥の答えを聞き、母はパッと表情を明るくした。

「さすが私の息子だわ」

父いわく、母は財団のことより、恭弥の特例入学のほうが嬉しいらしい。

満面の笑みを浮かべる母を見て、恭弥も微笑む。

「そんなに喜んでもらえるなら、もっと早く伝えればよかったですね」

シャワーを浴びた恭弥が部屋に戻ったタイミングで、美紅からメールが届いた。

最近は会ってないこともあり、恭弥から連絡してこれから会う約束をした。

歩道に出た恭弥に、美紅は軽い足取りでタタタッと走り寄る。

笑顔で手を上げる美紅に、恭弥も手をあげて応じた。

お店に移動し、向かい合って話し始める2人(テーブルにはやや大きめのかき氷が1つ)。

「恭くんに聞きたいことがあるの」

と言いながら、美紅はカバンからフランス語会話の本を取り出した。

発音がうまくできない、という美紅に、恭弥はコツを教える。

でも美紅は、発音の仕方なんかより、恭弥を見ているほうが嬉しいみたいだ。

恭弥はふと、自分の現状を考え始める。

もしオレがただの平凡な高校生なら、何か違っていたんだろうか?

恭弥の脳裏に、美紅と隣り合って座り、手を繋ぐシルエットが浮かんだ。

生まれ変わる以前の、単なる高校生の恭弥として…

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