6番ホールにて。
ラノックたちがゴルフを楽しむ様子を、遠巻きから望遠鏡でのぞいている警護人の2人。
うち1人が、血を吐いて倒れた。
すぐ横にいたもう1人も、直後にうなじをナイフで貫かれる。
ナイフを引き抜いた暗殺者は、耳につけた無線を通じて英語で連絡した。
「6番ホール、制圧OK」
ラノックが構えを取り、いまにもボールを打とうとしている。
その後ろ姿を見守る恭弥は、この場所の危険性を感じていた。
耳につけた無線を通じて、6番ホールの警護人に連絡を入れる。
「報告しろ」
瞬時に、ナイフで貫かれた警護人の手の中で、無線機が鳴った。
黒マスクで顔を覆った暗殺者は、無線機を手に取り、「異常なし」と答えた。
そしてすぐに、ブリーフケースを開き、収納されたライフルを取り出して狙いを定める。
ターゲットは、ラノックの娘アンヌ。
スコープの中心に、アンヌの頬を見据える。
人差し指に力を込めようとした瞬間…
恭弥が割って入り、暗殺者は指を止めた。
暗殺者はすぐに、無線を通じて英語で尋ねた。
「ターゲットが人混みに紛れた。強行か?」
「待機せよ。無理する必要はない」
振り返った恭弥は、言いようのない違和感に襲われていた。
ドクンドクンと、心臓が波打つ。
コース途中にある建物内で、しばしの休憩タイム。
警護人は、外から狙われぬよう、全ての窓にブラインドを下ろした。
恭弥は、ブラインドの隙間から外を覗きながら、違和感と向き合っていた。
6番ホールも通過したが、胸騒ぎが収まらないのだ。
「外ばかり気にするなんて、やっぱり警護人なのね」と、アンヌが声をかけてきた。
「違いますよ」と恭弥は柔和な表情で答える。
するとアンヌは、なぜゴルフ場が好きなのか話し始めた。
「お父さんが忙しかったとき、お母さんとよくピクニックに出かけたわ。そのときの草の匂いを覚えてるの。ゴルフ場にくると、お母さんを思い出すの」
そこへラノックがやってきて、アンヌに次のホールへの準備を促した。
アンヌが去ると、ラノックが本音を打ち明けてくれた。
「ここらで撤退すべきなのはわかってる。でも、あの子の顔を見るとね…あの子があんなふうに話すのは、久しぶりなんだ」
「(アンヌは)他の人とは話さないんですか?」
「形式的にはね。だから一時は、引退も考えたよ」
そこへ、アンヌが戻ってきて、再び外に出た。
9番ホールは、広がるフェアウェイが爽快なコースだ。
左には山、右には5番ホールがあり、6番ホール同様に危険でもある。
無線で連絡を取ろうとした恭弥は、瞬時に心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン…
ラノックがボールを打つ背中を見ながら、さらなる焦燥感に襲われる。
緊迫感に溢れた恭弥の横顔は、ダエルにも違和感を感じさせた。
「潜伏班、報告しろ」と恭弥が無線を通じて応答を求める。
返事はなく、そのため黒川や京極にも違和感が伝わった。
直後、ボールを打とうとしていたアンヌを、恭弥は飛び込むように庇った。
アンヌを下にして、地面に倒れ込む。
次の瞬間、アンヌがいた場所の地面は、ライフルの狙撃で削り取られた!
「早く傘を」と恭弥が叫ぶ。
警護人たちはすぐに、防弾用の傘を開いて銃撃に備えた。
その様子を見ていた暗殺者は、無線を通じて英語で会話する。
「見つかった。どうする?」
相手からの指示は、「始末するまで撃ち続けろ」だった。
暗殺者は、ライフルで2発目を発砲した。
傘の隙を抜け、警護人が1人がやられた。
アンヌを覆ったまま横になっていた恭弥は、カートまで避難するよう指示を出す。
傘で防御壁を作ったまま、ラノックを含む半数の警護人は移動を試みた。
(残りの半数は、アンヌを守るために傘を開いて残っている。)
暗殺者の3発目を顔面にくらい、移動中の警護人がまた1人倒れた。
カートに達したラノックは、まだアンヌがホールに残っているのを見て、叫ぶ。
「アンヌ」
アンヌを守りながら、恭弥が声を張り上げる。
「大使、まずはあなたが避難を!」
不安と恐怖に引きつった表情を浮かべる、ラノック。
「アンヌはオレが守ります」
恭弥の言葉を聞いて、ラノックはなんとも複雑な表情を見せた。
黒川、京極とともに、ラノックの護衛としてカートに乗っていたダエルが、「オレも残ります」と言った。
しかし恭弥は、「ダメだ」と叫んだ。
ラノックを避難させるのが先で、反撃はその後だと。
ダエルは、歯痒い表情で言い残す。
「もし死んだりなんかしたら、地獄まで追っかけてって殺してやりますよ」
カートで去るダエルたちを見て、恭弥はひとまず、ラノックの身の安全は確信した。
ダエルがついているのだから、と。
問題は、この場に残った自分達だ…

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