第116話

6番ホールにて。

ラノックたちがゴルフを楽しむ様子を、遠巻きから望遠鏡でのぞいている警護人の2人。

うち1人が、血を吐いて倒れた。

すぐ横にいたもう1人も、直後にうなじをナイフで貫かれる。

ナイフを引き抜いた暗殺者は、耳につけた無線を通じて英語で連絡した。

「6番ホール、制圧OK」

ラノックが構えを取り、いまにもボールを打とうとしている。

その後ろ姿を見守る恭弥は、この場所の危険性を感じていた。

耳につけた無線を通じて、6番ホールの警護人に連絡を入れる。

「報告しろ」

瞬時に、ナイフで貫かれた警護人の手の中で、無線機が鳴った。

黒マスクで顔を覆った暗殺者は、無線機を手に取り、「異常なし」と答えた。

そしてすぐに、ブリーフケースを開き、収納されたライフルを取り出して狙いを定める。

ターゲットは、ラノックの娘アンヌ。
スコープの中心に、アンヌの頬を見据える。

人差し指に力を込めようとした瞬間…

恭弥が割って入り、暗殺者は指を止めた。

暗殺者はすぐに、無線を通じて英語で尋ねた。

「ターゲットが人混みに紛れた。強行か?」

「待機せよ。無理する必要はない」

振り返った恭弥は、言いようのない違和感に襲われていた。

ドクンドクンと、心臓が波打つ。

コース途中にある建物内で、しばしの休憩タイム。

警護人は、外から狙われぬよう、全ての窓にブラインドを下ろした。

恭弥は、ブラインドの隙間から外を覗きながら、違和感と向き合っていた。

6番ホールも通過したが、胸騒ぎが収まらないのだ。

「外ばかり気にするなんて、やっぱり警護人なのね」と、アンヌが声をかけてきた。

「違いますよ」と恭弥は柔和な表情で答える。

するとアンヌは、なぜゴルフ場が好きなのか話し始めた。

「お父さんが忙しかったとき、お母さんとよくピクニックに出かけたわ。そのときの草の匂いを覚えてるの。ゴルフ場にくると、お母さんを思い出すの」

そこへラノックがやってきて、アンヌに次のホールへの準備を促した。

アンヌが去ると、ラノックが本音を打ち明けてくれた。

「ここらで撤退すべきなのはわかってる。でも、あの子の顔を見るとね…あの子があんなふうに話すのは、久しぶりなんだ」

「(アンヌは)他の人とは話さないんですか?」

「形式的にはね。だから一時は、引退も考えたよ」

そこへ、アンヌが戻ってきて、再び外に出た。

9番ホールは、広がるフェアウェイが爽快なコースだ。

左には山、右には5番ホールがあり、6番ホール同様に危険でもある。

無線で連絡を取ろうとした恭弥は、瞬時に心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン…

ラノックがボールを打つ背中を見ながら、さらなる焦燥感に襲われる。

緊迫感に溢れた恭弥の横顔は、ダエルにも違和感を感じさせた。

「潜伏班、報告しろ」と恭弥が無線を通じて応答を求める。

返事はなく、そのため黒川や京極にも違和感が伝わった。

直後、ボールを打とうとしていたアンヌを、恭弥は飛び込むように庇った。

アンヌを下にして、地面に倒れ込む。

次の瞬間、アンヌがいた場所の地面は、ライフルの狙撃で削り取られた!

「早く傘を」と恭弥が叫ぶ。

警護人たちはすぐに、防弾用の傘を開いて銃撃に備えた。

その様子を見ていた暗殺者は、無線を通じて英語で会話する。

「見つかった。どうする?」

相手からの指示は、「始末するまで撃ち続けろ」だった。

暗殺者は、ライフルで2発目を発砲した。

傘の隙を抜け、警護人が1人がやられた。

アンヌを覆ったまま横になっていた恭弥は、カートまで避難するよう指示を出す。

傘で防御壁を作ったまま、ラノックを含む半数の警護人は移動を試みた。

(残りの半数は、アンヌを守るために傘を開いて残っている。)

暗殺者の3発目を顔面にくらい、移動中の警護人がまた1人倒れた。

カートに達したラノックは、まだアンヌがホールに残っているのを見て、叫ぶ。

「アンヌ」

アンヌを守りながら、恭弥が声を張り上げる。

「大使、まずはあなたが避難を!」

不安と恐怖に引きつった表情を浮かべる、ラノック。

「アンヌはオレが守ります」

恭弥の言葉を聞いて、ラノックはなんとも複雑な表情を見せた。

黒川、京極とともに、ラノックの護衛としてカートに乗っていたダエルが、「オレも残ります」と言った。

しかし恭弥は、「ダメだ」と叫んだ。

ラノックを避難させるのが先で、反撃はその後だと。

ダエルは、歯痒い表情で言い残す。

「もし死んだりなんかしたら、地獄まで追っかけてって殺してやりますよ」

カートで去るダエルたちを見て、恭弥はひとまず、ラノックの身の安全は確信した。

ダエルがついているのだから、と。

問題は、この場に残った自分達だ…

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