相手のボスは、恭弥たち7人を見てこう思っていた。
面倒なことになっちまった。全滅覚悟でいかねえと。しかし、そこまでする必要あるのか?
いっぽう、京極もまた、似たようなことを考えていた。
犠牲者は出ていないが、こっちもかなりの深傷を負ってる。ひとまず彼らの治療が先決だ!
相手を見ても、包囲網を維持しているだけで、積極的に仕掛けてはこない。
この戦いに懐疑心を抱いている証拠だ。
それなら、と京極が考えた瞬間、恭弥が前に出て相手を挑発した。
「ビビってんのか? それならこっちから行ってやる」
「待ってください」と京極が止めた。「私に任せてください」
そして京極は、相手のボスに呼びかけ、中国語で話し始めた。
何を話しているか、疑問に思う恭弥。
話が済むと、相手のボスは手下に何かを伝え、そのまま引き下がっていった。
京極はいう。
「ここまでにしようと話をつけました」
「なに勝手なことを」と不満をもらす恭弥。
京極は、自分の任務は恭弥たちの命を保護することであって、敵の壊滅ではないと説明した。
恭弥も須賀先生も限界が来てるし、そんな体で戦うのを警護責任者としては見過ごせない、と。
「体なら大丈夫。ここで決着をつけないと」と我を貫く恭弥。
京極はなおも説得を続ける。
死体を処理する時間もないのだから、このことが公になったら最低でも無期懲役になる、と。
「いいんです」と恭弥。「奴らさえ全滅させられるなら」
「いい加減にしろ」と京極は怒鳴った。
「ここで奴らを全滅させて終わるなら、私だってやる。しかしそうじゃないだろう」
すぐに冷静になった京極は、「すみません」と詫びてから意見を続けた。
「あなたが守るべき人はまだいる。つまりそれは、我々の任務も完了してないという意味です」
ついに恭弥も折れて、「わかりました」とつぶやいた。
相手のボスは、タバコをふかしながら、部下が亡骸を処理してゆくのを見ていた。
「まさかうちの連中を処理することになるとはな」と、日本語でつぶやくボス。
そこへ恭弥が近づくと、ボスは日本語で話しかけてきた。
「日本にお前みたいな強者がいるとはな。俺たちは引き上げるが、お前を狙う奴はまだまだいる。やられんなよ。それから、中国に来やがったらどうなるか分かってんな?」
「ほざけ」と恭弥。
ボスが部下を引き連れて去ると、恭弥は呼吸を荒くして、ダエルはふうと息を吐いた。
直後、恭弥はその場にばったりと倒れてしまう。
すぐに恭弥を負ぶった京極は、ダエルや警護人とともに山を駆け下りてゆく。
「西さん、しっかり。麓に救急車が来てます。それまで耐えてください」
恭弥の目には、薄らぼんやりとした映像が映っていた。
救急車や救急隊員の姿、そして、心配そうに涙を浮かべるダエル。
自分の名前が呼ばれているのに気づき、目を開けると、そこはアフリカのジャングルだった。
「恭弥」と何度も呼びかけてくる声が聞こえる。
目の前の霧が晴れ、現れたのは母だった。
母は木にしばりつけられながらも、何度も「恭弥」と呼びかけている。
すぐに駆けつけようとする恭弥だが、左右からロープが飛んできて、手首を縛られてしまった。
ロープは後ろからも飛んできて、首や腰、足首も固定され、地面から動けない状況に陥った。
ふと見ると、母の背後には、赤黒い肌をした巨人の姿が!
巨人は剣を構え、母の真上から振り下ろそうとしている。
「やめてくれ」と叫ぶ恭弥。
「逃げて」と涙する母。
巨人が剣を振り下ろした瞬間…
病室で目が覚めた恭弥は、氷室医師から注射を受けているところだった。
「もうちょっとで新鮮な臓器が手に入ったのに」と冗談をこぼす氷室。
すぐそばには京極もいて、恭弥の具合を氷室に尋ねた。
「大丈夫です。峠は越しましたので、必要なものがあればナースコールを押してください」
医師が去ると、恭弥は京極に、須賀先生のことを尋ねた。
「もうここにはいません」と京極は神妙な面持ちでそう言ってきた。
「それはどういう?」

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