美紅がちょっと俯き加減なのをみて、本当のことを打ち明けるしかなくなった恭弥。
DIという会社の代表であることを、正直に話した。
「まだ親にも話してない。投資が終わるまで、臨時で代表を務めてるんだ」
留学するときに両親に迷惑かけないように、稼いだお金は貯金するつもりだ、とも。
「キョウ君は学費は免除されるんだし、大切なことに使ってね」
「そうするよ」と答えながら、恭弥は美紅を、意外にしっかりしてるなと思っていた。
美紅は機嫌良さそうに窓の外を眺めている。
恭弥は、思う。
頭がいいのに、単純なやつ。
そんなとこが、コイツの魅力だな。
そうこうしているうちに、車は海沿いに差し掛かっていた。
水平線がくっきり見えて、青い空にはちょっとだけ雲がただよう、素晴らしいロケーションだ。
やがてカフェに着くと、テラス席で向き合って話す2人。
お昼には、海鮮料理の店へ。
ホタテやカキなど、いろんな貝類を網焼きにして食べる。
夕方になると、恭弥が美紅を背負って砂浜を歩いた。
2人とも素足になって、とても穏やかなひとときだ。
夜になって、美紅を家に送り届けた恭弥。
自分のマンションに帰り、一夜が開ける。
両親とともに、児童養護施設へ行く約束だ。
『ひだまり』という施設に着くと、恭弥は母から、子供たちと遊んでてと言われた。
両親は、支援の話をしてくるそうだ。
ということで、園児相手に目隠しをして鬼さんこちらを楽しんだり、外に出てちょっと大きな子(中学生くらい)とサッカーしたり。
館内に戻っては、絵本『白雪姫』の読み聞かせだ。
子供たちは恭弥を狼に見立て、親指を逆さにして見せた。
「俺は人狼じゃねえよ」とつっこむ恭弥。
帰りの車の中では、母が子供たちを心配する気持ちを言葉にした。
父と母の会話からすると、どうやら施設側は、支援金の用途を明らかにしていないようだ。
父いわく、子供たちの生活費や学費を支援したい。
でも施設側は、運営費に使うと言うばかりで、資料も見せてくれない。
使い道が不透明なだけに、支援するべきか決めかねているのだ。
対して母は、子供たちが心配だからと、まず支援は先にしてしまいましょう、という考えだった。
「父さんと母さんが喧嘩なんて、久しぶりですね」と恭弥。
「喧嘩じゃなくて、説得しあってるだけだ」と父。
恭弥はふと、2人の邪魔にならないよう、学校に行くと言い出した。
運動するから、と。
運動部の部室で、トレーニングを始めた恭弥。
鉄アレイを置くと、自分が今どんなに幸せかを噛みしめた。
ほんの数ヶ月前までは、戦場にいただけに、こんな幸せなんて想像もしていなかった。
この幸せが続けばいいと願ういっぽう、それが足かせになることも悟っていた。
なにしろ、シャフランや首斬り屋との戦いが控えているのだ。
オレのせいで、みんなが危険にさらされるかもしれない。
そんなことを思いながら水分補給していると、ダエルが姿を見せた。
互いに軽く挨拶したあと、恭弥から手合わせを持ちかけた。
「急っすね」
「傭兵に急なんてあるかよ」
「オレは今、先生っすよ。本気でいいんすか?」
話しながら、上着を脱ぐダエル。
「殺さない程度でな」
恭弥もまた、重ね着していたシャツを脱いで、ランニングシャツの姿になろうとした。
その隙をついて、ダエルが飛びかかってきた。
いきなり吹っ飛ばされた恭弥は、腑に落ちない表情でいう。
「急に何すんだ?」
「傭兵に急なんてねえっす」
そうかよ、って感じで立ち上がった恭弥は、右のストレートを仕掛ける。
防いだダエルに、さらなる猛撃。
ガードしながら下がるダエルに、アッパーカットを繰り出す。
さっとかわされ、ダエルからの反撃。
軽くよけた恭弥は、左右の拳で怒涛のラッシュ。
ガードで耐えたダエルは、左、右、と大きめのモーション。
さらにダエルの左拳が飛んできた矢先、恭弥はダエルの懐に飛び込んでタックル。
ダエルの肘打ちが上から下される瞬間、恭弥は距離をとってかわした。
そして最後に、ダエルの強烈な右ストレート。
身を低くしてそれを避けながら、恭弥の左拳がダエルの顔面の前で寸止めされた。
オレに、みんなを守れる力があればいい!
そう思いながら、ニヤリと微笑む恭弥。
「ガードできたっすよ」と、ダエルはちょっと不満を漏らした。
「はいはい」と恭弥は軽くあしらう。
お互いに水分補給して人呼吸おく間、恭弥のスマホが鳴った。
シャフランからだ!

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