第77話

美紅がちょっと俯き加減なのをみて、本当のことを打ち明けるしかなくなった恭弥。

DIという会社の代表であることを、正直に話した。

「まだ親にも話してない。投資が終わるまで、臨時で代表を務めてるんだ」

留学するときに両親に迷惑かけないように、稼いだお金は貯金するつもりだ、とも。

「キョウ君は学費は免除されるんだし、大切なことに使ってね」

「そうするよ」と答えながら、恭弥は美紅を、意外にしっかりしてるなと思っていた。

美紅は機嫌良さそうに窓の外を眺めている。

恭弥は、思う。

頭がいいのに、単純なやつ。

そんなとこが、コイツの魅力だな。

そうこうしているうちに、車は海沿いに差し掛かっていた。

水平線がくっきり見えて、青い空にはちょっとだけ雲がただよう、素晴らしいロケーションだ。

やがてカフェに着くと、テラス席で向き合って話す2人。

お昼には、海鮮料理の店へ。

ホタテやカキなど、いろんな貝類を網焼きにして食べる。
夕方になると、恭弥が美紅を背負って砂浜を歩いた。

2人とも素足になって、とても穏やかなひとときだ。

夜になって、美紅を家に送り届けた恭弥。

自分のマンションに帰り、一夜が開ける。

両親とともに、児童養護施設へ行く約束だ。

『ひだまり』という施設に着くと、恭弥は母から、子供たちと遊んでてと言われた。

両親は、支援の話をしてくるそうだ。

ということで、園児相手に目隠しをして鬼さんこちらを楽しんだり、外に出てちょっと大きな子(中学生くらい)とサッカーしたり。

館内に戻っては、絵本『白雪姫』の読み聞かせだ。

子供たちは恭弥を狼に見立て、親指を逆さにして見せた。

「俺は人狼じゃねえよ」とつっこむ恭弥。
帰りの車の中では、母が子供たちを心配する気持ちを言葉にした。

父と母の会話からすると、どうやら施設側は、支援金の用途を明らかにしていないようだ。

父いわく、子供たちの生活費や学費を支援したい。

でも施設側は、運営費に使うと言うばかりで、資料も見せてくれない。

使い道が不透明なだけに、支援するべきか決めかねているのだ。

対して母は、子供たちが心配だからと、まず支援は先にしてしまいましょう、という考えだった。

「父さんと母さんが喧嘩なんて、久しぶりですね」と恭弥。

「喧嘩じゃなくて、説得しあってるだけだ」と父。

恭弥はふと、2人の邪魔にならないよう、学校に行くと言い出した。

運動するから、と。

運動部の部室で、トレーニングを始めた恭弥。

鉄アレイを置くと、自分が今どんなに幸せかを噛みしめた。

ほんの数ヶ月前までは、戦場にいただけに、こんな幸せなんて想像もしていなかった。

この幸せが続けばいいと願ういっぽう、それが足かせになることも悟っていた。

なにしろ、シャフランや首斬り屋との戦いが控えているのだ。

オレのせいで、みんなが危険にさらされるかもしれない。

そんなことを思いながら水分補給していると、ダエルが姿を見せた。

互いに軽く挨拶したあと、恭弥から手合わせを持ちかけた。

「急っすね」

「傭兵に急なんてあるかよ」

「オレは今、先生っすよ。本気でいいんすか?」

話しながら、上着を脱ぐダエル。

「殺さない程度でな」

恭弥もまた、重ね着していたシャツを脱いで、ランニングシャツの姿になろうとした。

その隙をついて、ダエルが飛びかかってきた。

いきなり吹っ飛ばされた恭弥は、腑に落ちない表情でいう。

「急に何すんだ?」

「傭兵に急なんてねえっす」

そうかよ、って感じで立ち上がった恭弥は、右のストレートを仕掛ける。

防いだダエルに、さらなる猛撃。

ガードしながら下がるダエルに、アッパーカットを繰り出す。

さっとかわされ、ダエルからの反撃。

軽くよけた恭弥は、左右の拳で怒涛のラッシュ。

ガードで耐えたダエルは、左、右、と大きめのモーション。

さらにダエルの左拳が飛んできた矢先、恭弥はダエルの懐に飛び込んでタックル。

ダエルの肘打ちが上から下される瞬間、恭弥は距離をとってかわした。

そして最後に、ダエルの強烈な右ストレート。

身を低くしてそれを避けながら、恭弥の左拳がダエルの顔面の前で寸止めされた。

オレに、みんなを守れる力があればいい!

そう思いながら、ニヤリと微笑む恭弥。

「ガードできたっすよ」と、ダエルはちょっと不満を漏らした。

「はいはい」と恭弥は軽くあしらう。

お互いに水分補給して人呼吸おく間、恭弥のスマホが鳴った。

シャフランからだ!

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