エレベーター内で遭遇した男に、ただならぬ気配を感じる恭弥。
間違いなく、特殊訓練を受けて戦場に出たことのあるヤツだ。
恭弥は、戦場に行く傭兵が、どのように成長していくかを思い描いた。
初めて戦場を経験した新兵は、不安に取りつかれ、大きなショックをうけ、ストレスから周りを気にするようになる。
実践を重ね、生き残ることで、不安をかき消していくのだ。
すると次には、目をギラつかせて神経質になる。
仲間とちょっと肩をぶつけた程度でも、相手に殴りかかるほどに。
でも大抵は先輩のほうが強く、返り討ちに遭ってしまう。
そのような過程を経て、精鋭になってゆくのだ。
恭弥はその精鋭をまとめるリーダー格である。
精鋭中の精鋭といえるだろう。
そして今、エレベーターで背中につけた男からは、精鋭である雰囲気がありありと感じられた。
つまり奴も、恭弥が精鋭であると気づいているはず。
お互いに気づいていない振りをしているに過ぎない。
エレベーターの扉が開くと、恭弥と男は逆の方向に進んだ。
ある程度離れたところで振り返った恭弥は、「やるなら今か?」と思うが、ひとまずラノックに知らせることを優先した。
スマホを取り出し、ラノックに連絡を入れる。
「特殊訓練を受けたアジア人が、ホテル内にいます。場所を変えましょう」
恭弥はさらに、ラノックの身近なところに内通者がいるのでは?と疑念を口にした。
しかしラノックは、このまま恭弥と会う方向で話を進めてきた。
「どう考えても危険です」という恭弥。
「君がいる。守ってくれるんだろう?」
なんて図々しい、と思いながらも、恭弥は承諾した。
ラノックの考えでは、自分が囮になって内通者を炙り出せる、とのこと。
そんなわけで、30分後に会う約束をした。
松田の仕事場(事務作業する部屋)で、恭弥は部屋の変更を申し込んだ。
「お任せください」と松田。
松田は恭弥に、芸能事務所『DIファミリー』に所属する女優『如月薫』についての話題をもちかけてきた。
例の、姫野の大人バージョンだ。
松田いわく、薫には気をつけるように、とのこと。
薫は、有名な大物プロデューサーや大手企業の幹部と、このホテルに来るらしい。
「背後には大物がいる可能性があります」
表情を引き締めた恭弥は、「わかった」と答えた。
黒い車でやってきたラノックを、外まで迎えに出た恭弥。
部屋に移動して、会話を始めた。
ラノックいわく、北朝鮮が怪しい動きをしているとのこと。
恭弥は、シャフランの言葉を切り出した。
シャフランが、「ヨーロッパ全体の勢力図が変わる」と言っていたことについてだ。
「ことが大きくなり過ぎていて、オレの手に負えません。何か隠してるのなら、オレは手を引きます」
ラノックは、恭弥に対するこれまでの感謝を示した後、2つ頼みがあると言ってきた。
1つ目は、ドラマの制作発表をしてほしい、ということ。
どんな考えかわかりかねるが、恭弥は協力できることはしようと思い、承諾した。
ラノックは続ける。
「2つ目は、シャフランに私の動きを伝え、20億を受け取ってくれ」
驚く恭弥。

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