第97話

脅しとも取れる薫からの連絡を受け、電話を終えた愛子はため息をもらした。

こんなことしたくないから、ミシェルさんとの仕事を選んだのに…

ミシェルさんに打ち明けるべき?

顔を手で覆いながら、愛子は思い悩むのだった。

風呂上がりの恭弥に、父が声をかけてきた。

団地の周りを歩きながら、ちょっと話をしよう、と。

ということで、外に出た2人。

街灯が光る夜の道を歩く。

恭弥は白いTシャツ姿、父は薄いブルーのYシャツを着ている。

ある程度歩いて立ち止まった父は、神妙な面持ちで尋ねてきた。

「恭弥、お前はDIの代表なのか?」

不意の質問に、恭弥はちょっと冷や汗を流す。

父はスマホを取り出し、恭弥に画面を見せた。

ホテルでの待遇が気になったため、いろいろ調べたらしい。

「ミシェルさんの名前で検索したら、こんな記事を見つけたんだ」

記事のタイトルは以下だ。

『DIファミリーが(株)クレディ・ベンチャーズから巨額の投資を誘致』

本文には、ミシェル理事の名とともに、『西恭弥代表』という名前もバッチリ書いてある。

さらに、椎名愛子主演のドラマに注力する予定だ、とも。

「これはお前なのか? それとも、同姓同名なだけか?」

一瞬言葉に詰まった恭弥だが、結局は打ち明けた。

「オレです」

そして、説明し始めた。

「ゴント社の件で知り合った人が、ドラマの投資先を探していたため、ミシェルを紹介したんです」

(ラノックの面影が描かれる。)

「その流れで、投資が終わるまで、代表になるよう頼まれました。一時的なことなので、話さなかったんです」

父は顎に手を当て、ちょっと息をついた。

「自分で成果を出したビジネスだ。報告の義務はないさ。ちょっと驚きはしたが」

「ひと段落したら話すつもりでした」

父はタバコを取り出し、口にあてがう。

火をつけ、煙を吐くと、「それだけか?」と聞いてきた。

「え?」と聞き返す恭弥に、「ほかに父さんたちが知らないことはないのか?」と父。

恭弥は心の中で、この先ちょっとずつ明らかになるより、この場で全部話したほうがいいだろう、と考えていた。

というわけで、まずは京極との関係について話した。

「UBコップという警護会社があるんですが、その会社の持分ももらえる予定です」

父は驚きの表情を浮かべたが、すぐに苦笑いに変わった。

ちょっと青ざめながら、「ハハハハハ」と声だけで笑った。

「それで終わりか?」

「ほかには、ゴントの株も少しあります」

「ゴントの? いくらくらいだ?」

「細かくは分かりませんが、数億円の価値だと聞きました」

父は顔中に汗を浮かべながら、またもや「ハハハ」と笑った。

話のついでにと、恭弥は自分の気持ちを伝える。

「その金は、父さんと母さんが管理してもらえますか? オレには必要ないし、使い道もないんで。児童養護施設の支援金にでも使ってください」

父はふっと息を吐き、「わかった」とつぶやいた。

恭弥を心配する父は、「その金は、卑怯な方法で手にしたわけじゃあるまいな?」と聞いてきた。

「運が良かっただけです」と、恭弥はまっすぐに父を見て答える。

「他にも理由はありますが、今は話せません。でも、卑怯な方法を使ったりなどしてません」

「信じるよ」と、父はまた息をついた。

少し表情を固くした父は、次の質問をぶつけてきた。

「前にも聞いたが…、恭弥、お前は本当に、父さんの息子か?」

この質問には、さすがの恭弥も一瞬固まってしまう。

「飛び降りて怪我する前から誠実な子だったが、あくまでも高校生レベルだった。しかし今のお前は、父さんの理解を超えるときがある」

そして父は、覚悟はできているから正直に答えて欲しい、と真っ直ぐな目を向けてきた。

恭弥は答える。

「誰が何を言おうと、オレは父さんの息子です」

しかし心の中では、葛藤が渦巻いていた。

自分の発言が本当なのか嘘なのか、判断しきれずに…

「まあ、財産の話を打ち明けてくれたのも、息子だからだよな。変なことを聞いてすまない。もう聞かないよ」

2人は歩きながら話し始めた。

父は、母さんには自分から話しておくと言い、母さんの名前で財団を作る案をもちかけるのだった。
ホテルのエントランスのような場所で、薫と大柴がテーブルを挟んで話している。

薫は大柴に、愛子はきっと今この場所に向かっている、と伝えた。

「お酒をたっぷり飲ませてからホテルへ…そして愛子はうちに引き入れ、美咲には助演をやらせましょう」

愛子の件が順調と見ると、大柴は次に、生意気なガイ(恭弥)について考え始めた。

ギャングの知り合いはたくさんいるという大柴に、なら痛めつけちゃえばいい、と薫。

「あいつも前に、ホテルで好き勝手にやってましたよ」

「ヤングだから、身のほどを知らないのさ。失うモノが多いのなら、手荒な真似はケアフルしないと」

「放っておくってことですか?」

薫の問いかけにに対し、大柴は不敵な笑みを浮かべるのだった。

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