ダエルが運転し、後部座席では恭弥が、京極の応急処置に当たっていた。
「歳はとりたくないものだな」と、ポツリこぼす京極。
かなりショックを受けている京極を見て、恭弥もその気持ちを察していた。
京極は、恭弥の傷も心配したあと、恭弥の父について聞いてきた。
西モータースの代表は、本当に恭弥の父なのか、と。
恭弥の強さを知っているだけに、一般人の父は、イメージがつかないのだろう。
京極は、かつての先輩に、恭弥と似た人物がいるという。
「非武装王と呼ばれてた人物だ」
言葉の響きから、拳だけで戦う人物かと、恭弥は尋ねる。
拳での戦いも強かったが、そう呼ばれる理由は他にもある、と京極。
「非武装地帯の王」
その人と恭弥は、見た目は似てないが、雰囲気や周囲を圧倒する力がよく似ているらしい。
仁道病院に着くと、氷室院長が京極の手当てに当たってくれた。
「この国で銃創の手当てをすることになるとは」とか言いながら。
「この国にヘルゲートが開いて、そこで戦ったとか?」
氷室の冗談とも言えないセリフに、恭弥は軽く答える。
「漫画の読みすぎですよ」
氷室いわく、京極の傷は回復すれば後遺症も残らないだろう、とのこと。
京極が岩田について尋ねると、岩田も無事らしい。
処置が終われば、京極と同じこの病室に移動してくるそうだ。
「一般患者との交流は控えてください。変な噂が広まると、困りますからね」
そう言い残し、氷室は去った。
ふと、恭弥のスマホに連絡が入った。
ラノックからだ。
廊下に出た恭弥は、軽く挨拶を交わした後、ラノックから情報を得る。
「朗報がある。シャフランを捕まえた」
一瞬にして、恭弥の表情が引き締まった。
ラノックいわく、フランスの要員がシャフランを捕まえ、今は大使館に抑留中とのこと。
明日にはフランスに送られるそうだ。
その言葉を聞いた恭弥は、耳を疑う。
フランスに送るだって?
なに勝手なことを?
説明を求める恭弥に、ラノックは告げる。
「気持ちはわかる。しかし私の立場も察してくれ。もしかすると、私も明日にはフランスに戻ることになる」
この話はまた明日にして、今日のところは休むようにと、恭弥に言いかけたラノック。
でも恭弥は、本心を口にする。
「オレと大使は協力関係と思ってました。でも、そちらはそうじゃなかったようですね」
表情をこわばらせ、恭弥は続ける。
「オレはあなたの部下ではありません。好きにさせてもらいます」
電話を切ろうとしたが、ラノックは「弁明させてくれ」と食い下がってきた。
恭弥は再び耳にスマホをあてがい、話を聞く。
「情報総局から、生きたまま連れてくるよう言われたんだ。こんなやり方は気に入らないが、立場上しかたなかったことも理解してくれないか」
「理解はしてます。オレがすることも、理解してください」と恭弥。
「これ以上、シャフランには勝手にさせない。名誉に懸けて誓う」
「それは、オレがシャフランの首をかっ切っても同じです」
理解を求めるラノックに、恭弥はいう。
「シャフランに会わせてください」
「それは…」
埒が明かないラノックの返事を聞き、恭弥は宣言する。
「大使の協力がなくとも、オレは今夜シャフランに会います。シャフランは今、フランス大使館にいるんですね?」
ラノックはため息をついた後、10分だけ考える時間をくれ、と言ってきた。
病室に戻り、ダエルと京極に、今の会話を話す恭弥。
ダエルは厳しい表情で、「なんのためにここまで頑張ったと思ってんだ」と声を張り上げた。
京極は冷静に、恭弥のこれからの行動についた尋ねた。
恭弥の気持ちはひとつ、大使館に行くことだけだった。
「慎重に考えたほうがいい。外交問題に発展しかねないからな」と京極。
知ったこっちゃないです、という恭弥に、京極は続ける。
「中国とフランスの神経戦という可能性だってある」
首斬り屋とシャフランは利用されたんだろう、とも。
そこへ、ラノックからの連絡が入った。
病院に部下を向かわせた、というラノック。
京極は、ひとりの高校生でしかない恭弥が、フランス大使を脅して動かしたとあって、声を挙げて笑った。
恭弥はとにかく、ラノックの部下の元へ向かうことにした。
ダエルも一緒に行くといい、少しの間、病院の外で待った。
ラノックの部下が車で迎えにきてくれて、乗り込んだ恭弥とダエル。
シャフランへの怒りをたぎらせて、恭弥は表情を鋭くした。

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