シャフランから取引を持ちかけられた恭弥は、毅然とした態度でこう言った。
「断る」
シャフランはそれでもまだ余裕で、「話くらい聞けよ」と促してきた。
「聞くだけ無駄だ」
シャフランに背中を向け、去ろうとした。
しかし、「ゴッド・オブ・ブラックフィールド」と呼ばれて立ち止まり、再びシャフランの横に立った。
シャフランは、ブラックヘッドやイギリスについて話し出す。
「前に俺がお前に敗れたとき、イギリスは動かなかった。それは、俺が裏切ったと思っていたからだそうだ。しかし今、奴らは俺をここから出そうと必死だ。なぜだろうな?」
牢屋にいる人物が得られる情報じゃないため、恭弥はすぐに察した。
内通者がいる、と。
「お前が本当に傭兵の西恭弥なら、それは間違いなくブラックヘッドと関係している」
恭弥はシャフランを見下ろしたまま、黙って聞いていた。
「俺はイギリスとも取り引きしている。ここから出してくれるなら、ブラックヘッドを探すのを手伝ってやると」
恭弥が生まれ変わったなら、その理由に興味がないはずがない。
シャフランはそう思い、恭弥に鎌をかけているのだった。
しかし、恭弥の答えは一貫していた。
「地獄に堕ちろ。オマエを待ってるヤツがいるだろ」
今度こそ、恭弥は牢屋をあとにした。
シャフランは笑い声をあげたが、恭弥は構わず、ラノックとともに扉の外に出ていった。
シャフランと会ったことで、いくつかの収穫はあった。
ブラックヘッドが、恭弥(の生まれ変わり)に関係しているであろうこと。
シャフランに内通者がいるであろうこと。
「それを隠しもしないのだ。何かあるのだろう」と、後部座席に乗ったラノックは、隣に座る恭弥に向けて言った。
恭弥は内心で、いっそ処刑すべきなんじゃ、と考えていた。
しかしラノックは、そんな恭弥の心を見透かすように、「まだシャフランからは聞き出せることはある」と言うのだった。
先を見通すようなラノックの横顔を見て、恭弥は思う。
この人が敵じゃなくて良かった、と。
ラノックには何か考えがあるらしく、ユニコーンプロジェクトの公表もしばらく伏せよう、と提案してきた。
恭弥は承諾し、飛行機で日本へ。
すっかり日が落ちたころ。
飛行機が着陸し、恭弥はラノックとともに降り立った。
最後にジェラールに挨拶しとくべきか、と考えたが、やめておいた。
死ぬんじゃねえぞ、と心の中でエールだけ送って。
ラノックの車で、家の近くまで送ってもらった恭弥は、スマホで黒川に連絡を入れた。
「すぐにお話したいことがあるんです。この前のカフェで会えませんか?」
「了解しました。京極を連れて行きます」
カフェで先に待っていた恭弥の前に、黒川と京極が現れた。
恭弥は、フランスでシャフランに会ってきたことなど、伝えるべき内容を話した。
(おそらく、ユニコーンの進展具合についても。)
話し終えて解散するころには、さらに夜も更けていた。
家に帰ろうか、と思ったが、こんな時間じゃ両親を起こしてしまう。
ダエルを呼ぼうか、とも考えたが、ダエルにも家族があると思って却下した。
こんな時間にこそ活発になるヤツといえば…
恭弥が電話したのは、神代だった。
連絡を受けた神代は、嬉しそうに「おお、西」と快活な声を発する。
どこにいるかを聞いた恭弥に、神代は答えた。
「ネクサスホテルだ」
恭弥は表情を歪め、「またかよ」と口走るのだった。

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