第135話

神代に電話をかけた恭弥は、ネクサスホテルと聞いて青ざめる。

何も起こらねえだろうな…

不安に思いながらも、さっそく出向いた。

玄関前で松田のお出迎えを受け、神代がクラブにいるとの報告を受ける。

「ラウンジで待ってると伝えとけ」

うるさい場所は苦手な恭弥だった。

ソファに腰掛けて待っていると、正面から神代がやってきた。

神代は、恭弥にとって初対面の男を2人ほど連れていた。

「俺の兄貴分だ」と紹介してくれた。

横浜の阿久津、さいたまの権藤。

どちらも強面だが、相手を脅しかけるような表情はしていない。

恭弥のほうも神代に紹介され、2人に握手を求められた。

がっしり握ると、4人は腰掛けて話し始めた。

権藤から切り出してきた話題は、恭弥が潰した山本組と後藤組、それに新田組についてだった。

恭弥は一瞬、喧嘩をふっかけられているのかと思ったが、権藤の快活な笑いでその考えは吹っ飛んだ。

「若ぇくせに、大したヤツだ。ワハハハ」

権藤はすぐに表情を引き締め、話を続けた。

「暴力団同士で争うのはいいが、政府まで動くとなると話は別だ」

阿久津が続ける。

「中国などの海外勢を相手にするには、頭数や資金力で負けるわけにはいかんのだ。それをお前さんは、3つも潰した」

恭弥は冷静に、敬語で答える。

「先に手を出してきたのは、向こうです」

その辺りは、権藤も阿久津も理解していた。

だけどせめて、事前に報告して欲しい、というのが権藤たちの希望だった。

そうすれば、こっちで解決するから、と。

「これからは、そうします」

やけに素直に答える恭弥を見て、神代はちょっと不思議がっていた。

来週には組の行事があるからと、権藤は恭弥の参加を促してきた。

「顔出しとけば、喧嘩をふっかけられたりもしなくなるからな」

そう言い残して、2人は去っていった。

残った神代は、会話の内容から何かを察したらしく、こんな質問をしてきた。

「お前、何者だ? 総理でもバックについてんのか?」

「バカ言え」

せっかくだからと、クラブで酒はどうだと、恭弥を誘う神代。

「うるさい場所はごめんだ」

それならと、神代は近くの店ならどうだと言う。

しかし、恭弥は渋い表情…

「暴力団の酒は飲めねえってか?」

「いや、問題はそこじゃねえ」

店の席についた2人。

恭弥は暴力団の酒が飲めないのではなく、年齢のせいで飲めないのだった。

気に入らない神代は、なんとかして恭弥に飲ませようと説得する。

そんな説得には応じず、恭弥はコーラ入りのグラスを持って言う。

「乾杯してやるから、見逃してくれ」

しょうがねえな、って感じで、神代は諦めた。

そこへ、半分ほど白髪になった女主人が料理を持って登場。

神代に対し、「ちょくちょく顔を店にきな」と、突っかかるような口調をしてみせた。

「これからは来るって」

女主人が去ると、神代は店との関係を話してくれた。

この店は、神代が幼い頃からよく通っていた居酒屋とのこと。

「金に困ったときはタダで食わしてくれてよ。出世してからは、店にくるチンピラどもを蹴散らしてやってんだ。俺の母親みたいなもんさ」

だいぶ酒が入り、頬もほてってきた神代。

裏家業から足を洗うって話も、少しずつ進めているらしい。

「五十嵐の意識が、まだ戻らねえんだ。代わりに俺が刺されてりゃ…」

そしてまた、酒をぐいっとあおる。

「だが、俺が刺されたら、俺の嫁と娘はどうなる? そうだ、そんときゃ、お前が守ってくれ。足を洗えっつった責任があんだろ?」

ラノックからもアンヌを頼まれ、今度は神代からも似たような頼みを受けたことに、恭弥は内心で思う。

なんでオレに任せんだ…

眠りかけた神代に、女主人が説教しにきた。

「寝るなら家に帰ってからにしな」

すっかり酔って眠りこけた神代を見て、恭弥は松田に連絡を入れた。

神代を迎えにきてくれ、と。

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