第137話

カフェテラスで会話中の、恭弥とダエル。

恭弥はテレビ局へ、ダエルは運動部を見に行く、ってことを伝え合う。

ダエルは椅子にもたれて背伸びしながら、思い出したように言ってきた。

「そうだ。今度、うちにも来てください」

恭弥はすぐにOKした。

タクシーに乗った恭弥の耳に、ラジオニュースが届いていた。

北朝鮮への裏金送金問題で、野党が政府を糾弾しているそうだ。

小太りの運転手は、政府に対してぶつくさと不平を漏らす。

「市民はやりきれねえよ、お客さんもそう思うでしょ?」

「政治には興味がないので…」
テレビ局に到着した恭弥は、ミシェルを通して監督や脚本家と対面を果たした。

柳木賢治監督と、遠藤先生だ。

人通りのある場所での邂逅だったため、その様子を離れたところから見ている者がいた。

若い女性と、その母親だ。

「あれ、あの人…」母がポツリつぶやいた。

娘は、母親が監督と脚本家を見ていると思ったが、違った。

母親は、恭弥を見ていたのだ。

建物内にあるオープンカフェで、コーヒー片手に一休みする恭弥とミシェル。

万事順調に進んでいるのは恭弥のおかげよと、ミシェルは嬉しそうにしていた。

恭弥のスマホがなり、その場で出た。

母からだ。

「今、テレビ局にいるんでしょ? 私の友達が、娘と一緒にそこにいるらしいの」

母いわく、その娘は女優志望とのこと。

テレビ局に売り込みにいったタイミングで、ちょうど恭弥を見かけたそうだ。

「履歴書だけでも見てもらいたいそうよ。ダメかしら?」

「そのくらい、いいですよ」

話を聞いていたミシェルも、なんとなく状況は把握できたようだ。

ミシェルはすぐに、作品に参加させることを提案する。

「脇役ならいくらでもあるわ。適当に役を作ってもいいし」

そんな会話をしていると、例の母娘が姿を見せた。

「早川サクラと申します」

頭を下げた娘に対し、恭弥も立ち上がって挨拶する。

「友達の息子相手に、そんなに畏まらないでください」

すると母親のほうから、娘の履歴書について切り出してきた。

「ミシェル理事長に渡してください」

ミシェルはフランス語で恭弥と会話し、その場で話がまとまったふりをする。

相手にプレッシャーを与えないための配慮らしい。

母娘に向けて、恭弥のほうからキャスティングを決めるという話を持ち出す。

いきなり役が得られそうな幸運に、びっくりする母娘。

「ドッキリですか? 本当にいいんですか?」

「本当ですよ」

大喜びする母娘を尻目に、恭弥はミシェルに挨拶して去ろうとした。

ミシェルは、今週末の予定を聞いてきた。

「一杯付き合ってほしいの」

恭弥は軽くOKし、ビルを出た。
ビル前の通りでスマホを操作しながら、タクシーを待つ。

ふと、心臓がドクンと鳴った。

すぐに、鼓動が早まってゆく。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン…

最初は小さく、だんだん大きく。

景色までカラフルさを失い、青一色に見えてしまう。

何らかの危険が迫っていると、体が教えてくれているのだ。

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