薫が何かしでかしそうだと、ダエルは不安を口にした。
いっぽうの恭弥は、「姫野の大人バージョンみたいなもんだ」と、軽く考えていた。
話題は、ラノックの今後の動きへと移っていった。
ダエルは加勢するつもりらしいが、恭弥は保留だという。
情報が漏れたと誤解されかねないからだ。
ふと恭弥は、タバコを吸うダエルに、「禁煙したんじゃないのか?」と尋ねた。
「そんなの、人間のすることじゃないっす」とダエル。
笑い合って、この夜は別れた。
翌朝。
路上でダッシュする恭弥は、元の体の状態(強さ)が戻りつつあることを実感していた。
スピードも持久力も、ずいぶんアップしていたのだ。
自宅に帰ると、両親と一緒に食事の席についた。
父から、明日の児童養護施設のボランティアに誘われ、一緒に行くことを約束する。
「それから今日は、ちょっと遅くなります。白井(美紅)と海に行くので」
母はちょっと、表情を曇らせた。
「あなたたち、まさか…」
「ただの友達です」と恭弥。
「それなら、小遣いをやらなくちゃな」と父。
でも恭弥は、その提案は断った。
お金には困ってないし、そもそも大金を持っているなんて言えないのだった。
待ち合わせ場所で、恭弥を待っている美紅。
恭弥が車で迎えにきて、美紅は助手席に乗り込んだ。
都会の街並みを走りながら、車内には音楽が溢れていた。
外を眺める美紅は、なんだかとっても上機嫌だ。
何がそんなに嬉しいんだか、と恭弥は思う。
と、恭弥のスマホがなった。
事務所からだ。
耳に通話用のワイヤレスイヤホンをつけ、通話に応じた。
相手がミシェルであることを予期し、恭弥はフランス語での通話を始めた。
ミシェルは、フランス語で話してきた恭弥に違和感を感じ、尋ねる。
「今はまずいの?」
「いや、大丈夫だ」と恭弥。
そんなこんなで、フランス語での通話が始まった。
ミシェルが言うには、フランスの大手企業クレディ・ベンチャーズから連絡があったそうだ。
「CFOが連絡してきたのよ。20億円を無条件で投資してくれるそうよ。必要なら、追加の投資までしてくれるって」
「言っただろ。話はついてるって」
ミシェルは興奮した様子で、ヨーロッパのメディアからも話が来ていることを伝えてきた。
社員たちもその場にいて、みんなパーティ気分で盛り上がっているのだった。
さらに、隣のビルを購入する件も、問題なく進めていけそうだという。
「もう嬉しくて、どうかしそう」
社員たちと一緒に盛り上がるミシェルは、ちょっとうるさいくらいに興奮し始めた。
「もう切るぞ」と言って、恭弥は通話を終えた。
でもすぐに、今度は西野から連絡が来た。
「今度のチャンス、絶対にものにしてみせます」と、決意表明を伝えてきた。
そして、社員一同が声を揃えてこう言った。
「代表、ありがとうございます」
「代表」と聞いた助手席の美紅は、ちょっと驚いた様子。
「何の話なの? フランス語で話してたし。代表ってどういうこと?」
ミシェルや西野、それに社員の声が大きかったため、美紅の耳にも届いたのだ。
「私が知らない秘密でもあるの?」
そう尋ねながら、美紅はシュンとしてしまう。
「いや、そんなんじゃ…」
恭弥は窓の外に目を向けて、どうやって誤魔化すかを考えるのだった。

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