薫と麗香に向けて、「出てけ」と言い放つ恭弥。
足を組んで椅子に腰掛ける恭弥を、立って見下ろす薫。
わなわなと体全体を震わせ、眉間にシワを寄せて、心の中が煮えくりかえっている様子だ。
対する恭弥は、冷静そのもの。
くるっと踵を返し、薫は去った。
ドアを激しく閉めて、怒りを現しながら。
まだ残っている麗香に対しても、恭弥は「出てけ」と言い放った。
麗香もまた、ドアを思い切り開け閉めして、怒りを表現した。
用事が済んだと見るや、恭弥はさっと立ち上がって、そのまま場を後にする。
階段を降りていると、ミシェルが追ってきた。
「まだ何かあんのか?」と恭弥。
「よかったら、夕食、一緒にどう?」
でも恭弥は例によって、「また今度な」と素っ気ない態度。
去ろうとする恭弥に、ミシェルは尋ねる。
「会社経営したこと、あるの?」
「ねえよ」とだけ言い残して、恭弥は去った。
その背中を見送りながら、ミシェルは呟く。
「なんてセクシーなの」
恭弥の手腕に、感動した様子だ。
帰宅した恭弥は、母の出迎えを受け、まずは風呂に入った。
その後、自室のベッドに横になると、今日の出来事が頭の中に蘇った。
放課後、京極が連れてきた護衛人たち相手に、軽く手合わせしてやったこと。
芸能事務所では、薫と一悶着を起こし、やや強引な手腕ですべてを丸くおさめたこと。
ちょっと疲れたと思いながら、一眠りしようとすると、スマホが振動した。
すべて0の番号からだ。
明らかに怪しいため、恭弥はすぐに直感した。
シャフラン!
「ラノックの動きは、把握できそうか?」と、シャフランが尋ねてきた。
「近いうちに野球場を訪れるそうだ」
時間と場所を聞いてきたシャフランに、恭弥は先に金を要求した。
会話をしながら、お互いに腹のさぐり合いをする恭弥とシャフラン。
「忘れたのか? 大事な人の命は、お前次第だ」と脅しをかけてくるシャフラン。
「ヨーロッパの勢力図が変わるんなら、20億なんて安いもんだろ?」と恭弥。
ラノックの動きについて、正確な日時を知りたいシャフランに対し、恭弥は先に送金するよう言い含める。
「月曜までに送金しろ。無理なら、この取引はなしだ」
シャフランもついに折れ、手配することを約束した。
最後に恭弥は、こう言って脅しつけた。
「オマエもオレの目の届く範囲にいる。忘れんな」
電話が切れた直後、シャフランは怒りでスマホを叩きつけようとした。
しかし、左の脇腹が痛み、思いとどまった。
そしてシャフランは、決意を新たにする。
必ず、恭弥を自分の手で仕留めると。
両親と食事していると、またしてもスマホが鳴った。
シャフランからと思いきや、白井美紅からだった。
明日、海に行く約束をしていたことについてのメッセージだ。
10時にな、と伝えると、母が「誰から?」と聞いてきた。
学年トップの女子からだと知り、母は「その子といい関係なのかな?」と思った様子。
直後には、ダエルから電話がきた。
恭弥の家の近くにいるから、出てきてくれ、とのこと。
ちょうど食べ終わったので、恭弥は両親に伝えて外に出た。
街頭下のベンチに腰掛けているダエル、その横に、恭弥も座った。
なんでもダエルは、隣のマンションに引っ越す予定だと言う。
妻の願いを叶えるのだそうだ。
その下見に来たついでに、恭弥と話そうと思っただけらしい。
恭弥は、会社での出来事をダエルに話した。
薫ともめたことなど。
タバコを吸いながら、ダエルは呟く。
「悪い予感がしますね。薫って女は、只者じゃない気がするんすよ」

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