ミシェルと電話し、自分までネクサスホテルに行くことを知った恭弥。
何か起こることを予感し、青ざめてしまうのだった。
目的の店は、のどかな渓流の麓にある。
席についたダエルは、鶏肉をパクッとやり、ビールを喉に流し込んだ。
「くぅ〜〜、これだよこれ」と、いかにも満足そうに表情を緩めていた。
「帰りも運転あんだぞ」と恭弥が言う。
「リーダーも免許あるじゃないすか」
「オレも飲むんだよ」と、恭弥は自分のグラスにビールを注ごうとする。
でもダエルから「高校生はダメっす」と止められ、憤慨して法律に対してイチャモンをつけた。
運転はOK、なのに酒とタバコがNGなのに納得いかないのだ。
「国会議員になって、法を変えればいいっす」とダエル。
悪態をつきながらも、恭弥はビールを控えた。
ふと景色をみると、川の流れが実に優雅で、ゆったりとした時間を感じさせる。
「今度はみんなで来ましょう」とダエルに言われ、みんなとは誰なのかを話し合った。
スミセンは女なしじゃ来ないだろうし、京極たちは忙しい最中だ。
暴力団の神代じゃ一般人がビビるし…
「なら、DIの奴らと、運動部の部員たちはどうだ」
もしかしたら女優と会えると思ったらしく、ダエルはちょっと喜ぶのだった。
日曜日。
恭弥の両親が、同窓会の準備をしていた。
オシャレでフォーマルな衣服に身を包み、恭弥に感想を求める父。
「似合ってますよ」と恭弥も満足げだ。
ただの同窓会にしては、いささか気合が入り過ぎてる両親を見て、恭弥は理由を尋ねた。
「久しぶりにあって、生活水準を確認する場でもあるのよ」と母が言う。
「父さんと母さんなら、引けを取らないはずですよ」
母はすこしだけ表情を曇らせて、自分たちでもようやく並みの生活ができる程度だと言った。
前の家族と比べてここは天国なのに、上には上がいると恭弥は感じるのだった。
「会場がネクサスホテルなんですよね? オレも用があって行くので、時間が合えば一緒に帰りましょう」
「ええ、後でね」
帰りは両親と一緒になるかもしれないため、恭弥は車ではなくタクシーで行くことにした。
ネクサスホテルに着いた恭弥を、神代の部下が出迎えてくれた。
挨拶などいいからと、恭弥は打ち合わせの場所へと案内を頼む。
ラウンジの一角でコーヒーを飲んでいると、ミシェルが姿を見せた。
ミシェルいわく、今日の打ち合わせの相手である『アリオン(会社名)』は、薫の新しい所属先でもあるそうだ。
ってことで、今日は薫もやって来るという。
「きっと言いがかりをつけてくるけど、相手のカードを把握するためにも、話を聞くだけにしましょう」
「言いがかりをつけられるくらいなら、やめりゃいいだろ」と恭弥は顔をしかめる。
でもミシェルがいうには、アリオンは製作会社やテレビ局への影響力が強いため、ある程度の譲歩は必要とのこと。
恭弥は眉根をひそめながらも、しぶしぶ納得するのだった。
そこへ、薫を含めた3人が現れた。
相変わらず傲慢な薫は、サングラスをとって恭弥を見下ろし、隣にいた2人の男性を紹介する。
左手にいるのが、代表取締役のデイビッド大柴。
右手にいるのが、JBS編成局長の戸塚航。
薫は内心、芸能界の大物たちと一緒に仕事をしていることで、恭弥を見下していた。
恭弥はとくに気にせず、軽く口元を緩めるばかり。
恭弥の余裕が気に入らなかったらしく、薫は少し表情をしかめた。
とりあえずミシェルとともに並んで立ち、恭弥も相手方に軽く挨拶した。
ウエイターが飲み物の注文を取りに来たが、大柴は軽くあしらった。
「ミーはマネーよりタイムが貴重だからね」
ってことで、さっそく本題に入る。
大柴は、主演女優を(愛子ではなく)薫にするなら、取り分は5:5にするという。
さらに、主演俳優まで(我が社)でキャスティングするなら、取り分は7:3で進める、とも。
勝手に話を進めようとするその言い分に、恭弥はカチンと来ていた。
なに勝手に決めてんだ?
ミシェルが軽く「どうしてそうなるんです?」と異を唱えると、大柴は勝手な条件をぶつけてきた。
「ヒロインがミス椎名(愛子)なら、主演のキャスティングはインポッシブル。俳優を揃えてやるんだから、マネーを多くもらえるのはオフコース」
背もたれに背中をつけて、不遜な態度で見下してくる大柴。
戸塚もまた、椎名愛子だけじゃ編成が厳しいと説得してきた。
「今回はアリオンに任せて、次回から自社で制作したらどうです? (今作の)椎名さんは準主役ということで」
その背景には、薫をヒロインにする、という意味が込められていた。
話を聞きながら、薫はほくそ笑んでいた。
思い知ったかしら、この世界は力がすべてだって
とりあえず相手方の言い分を聞いたミシェルは、冷静に製作費の話を持ち出した。
「ご提示いただいた収益配分からすると、製作費の半分をご負担いただけるということでしょうか?」
すると大柴は、やはり英語混じりで見下してくる。
「この業界、何年目? ハウロング?」
「出版社から移動して、まだ日は浅いですが…」とミシェル。
それなら今回だけは許そう、と前置きして、大柴はパチパチと指を鳴らした。
「製作費のハーフを持つなら、うちになんのメリットがあるんだ?」
かなり脅しつけるような言い方だったが、ミシェルは毅然と対応する。
「御社の影響力は承知しています。しかしクレディ・ベンチャーズから投資を受けたのは、我々DIファミリーです」
大柴は、背もたれの上に両腕を乗せて天を仰いだ。
「ちょっと投資されただけで、制作も販売もキャントだろ。ドゥーユーノー身の程?」
かなりの侮辱を受けて、ミシェルは黙り込んだ。
とりあえずこの場は引こうと考え、無理に笑顔を取り繕ってお礼を述べる。
そこに割って入ったのが、恭弥だった。
「この話はナシだ」
その場にいた全員が耳を疑う中、恭弥ははっきり口にする。
「相手を見下すなら、最初から敬語を使うな。俺みたいにな」
「ミーのことか?」と大柴。
「そうだ。クソほどの価値もねえ野郎が」

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