恭弥が運転する車が、夜の車道を走っている。
スマホが鳴り、耳にイヤホンをして受信した。
ラノックからの連絡だ。
ラノックはオフィスの椅子にゆったりと腰掛け、リラックスして電話している。
お互いに軽く挨拶したあと、ラノックがもうすぐこちら(日本)に来る予定だと言ってきた。
シャフランの件についての謝罪も兼ねて、一緒に食事したいという。
恭弥はすぐに直感した。
なにかまた、頼みごとがあるんだろうな、と。
とりあえず快活に「わかりました」と答え、通話を終えた。
帰宅した恭弥は、母の出迎えを受けた。
軽く言葉を交わすと、自室に戻って床についた。
翌朝。
ベッドボードに置いたスマホが鳴り、相手をチェックしてから受信した。
京極からの連絡で、時間がとれたら病院に来てほしい、とのこと。
恭弥に紹介したい人がいるらしい。
(京極の隣には、スーツを着た何者かの背中が描かれている。)
1時間くらいで行けます、と答え、通話を終えた。
車で移動中、またしてもスマホが震えた。
相手は恭弥の名前だけ確認すると、ぶっきらぼうな言葉使いでこう言ってきた。
「麻布西警察署の剛田だ。お前には傷害の疑いがかかっている。署まで来てもらおう」
恭弥はすぐに、デイビッドにチクられたと直感した。
いきなりのタメ口にイチャモンをつけると、相手はさらにマウントを取ってきた。
「警察相手に口答えとはな。とにかくすぐに来い」
「用事をすませたあとでいいですか?」
「ふざけるな。強制逮捕されたいのか」
そんなやりとりの挙げ句、恭弥はすぐに行くことを了承した。
デイビッドに対し、復讐ならいつでもしてこいと言ったことを、ちょっと後悔しながら。
とりあえず京極に連絡し、遅れる旨を伝えることにした。
「先にこっちに来れないか? 紹介したい人も忙しいんでな」と京極。
「それが警察に呼ばれてまして…」
というわけで、Uターンして警察署へ向かうのだった。
剛田は、鍛えた体にいかめしい顔立ちの男だった。
薄茶色の服に、黒いズボンを履き、恭弥を指差して糾弾してきた。
「学生が傷害事件なんかしでかしやがって」
机を挟んで剛田と向き合った恭弥は、冷静な態度で聞き返す。
「オレが何したっていうんです?」
剛田いわく、アリオンに不法侵入し、大柴享と如月薫をバッドで暴行した、とのこと。
さらに防犯カメラを破壊して逃走した、とも。
「デイビッドじゃなく亨ってんですか。で、アイツがそう言ったと?」と恭弥。
「しらばっくれようとしても無駄だ」
捜査もせず、証拠もないのに、どうしてオレがやったと?
恭弥がそう聞くと、「証拠はボコボコになった2人の顔だ」と剛田。
剛田が声を張り上げて威圧してきたが、恭弥は冷静に「まずは捜査してください」という言葉を連ねた。
「弁護士に連絡します」と恭弥は言った。
しかし剛田は聞く耳を持たず、部下に命じて恭弥を留置所にぶち込もうとした。
どうやらデイビッドが警察を買収したらしいな、と恭弥が悟ったそのとき…
2人の男がツカツカと歩み寄ってきた。
1人は50代くらいで、上役が着るような制服に身を包んでいる。
署長だ。
もう1人は40代くらいで、スーツ姿に眼鏡をかけた男だった。
2人が登場するや、剛田は敬礼してビシッと挨拶した。
署長はすぐに、剛田を一括した。
「お前は何をやってるんだ! まさか大柴の告訴を受理したわけじゃあるまいな?」
「えっと、容疑者を留置所に連れてくとこですが…」
剛田が捜査もせず、大柴の供述だけで判断していたことを知り、署長は思い切り叱りつけた。
青ざめる剛田。
声を荒げる署長を、スーツ姿の男が嗜める。
「声が大きいですよ」
署長は振り返り、「失礼しました」と恐縮した。
そして署長は、成り行きを見ていた恭弥に頭を下げ、丁寧な言葉使いで詫びを入れてきた。
剛田については、懲戒処分にする、とまで。
いきなりの展開に、恭弥は?を浮かべるばかり。
スーツ姿の男が恭弥を促す。
「この件は署長に任せて、行きましょう」
署長は恭弥にもう一度頭を下げ、丁寧に詫びを入れてきた。
恭弥が外に出た後、中からは剛田を諫める署長の怒鳴り声が鳴り響いていた。
廊下を歩きながら、お礼を口にする恭弥。
そして、相手が誰なのかを尋ねた。

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