上機嫌のラノックにがっちりハグされた恭弥は、そのあと護衛メンバーを紹介した。
京極、黒川、以前にも紹介したダエルの順で。
それぞれと握手したラノックは、今度は自分の連れを紹介した。
「娘のエイドリアンです」
恭弥が名乗ると、エイドリアンはフランス語でこう応えた。
「私のことは、アンヌと呼んでください」
その後ラノックは、まずは一服したいとフランス語で伝えてきた。
京極に対し、恭弥が通訳する。
「原則禁止だが、今日は貸切だし、VIPの要望なら構わないよ」と京極。
というわけで、揃って移動する。
ふと恭弥は、アンヌが左足を引きずっていることに気づいた。
ラノックと同じテーブルに着いた恭弥は、隣のテーブルに着いたアンヌに目を向けた。
アンヌは、慣れた手つきでタバコを吸っていた。
成人してるのか…
この体(現在の恭弥の体)より若く見えるのに
そんなことを考えていると、ラノックが話しかけてきた。
「日本の山は独特な匂いがする。こんなにワクワクする匂いは久しぶりだ」
恭弥はタバコは吸わないためか、タバコの匂いしかしないけどな、と思っていた。
ラノックは次に、なぜ自分がゴルフ場を好きなのかわかるかな、と聞いてきた。
「ゴルフが好きだからですよね?」
「もちろん、そうだよ」とラノック。
でも他にもっと大きな理由がある、と付け加えた。
「あの子だよ」
ラノックいわく、アンヌは7歳の頃、母親(ラノックの妻)と一緒に車で移動しているところを銃撃された。
犯人はおそらく、ラノックも乗っていると思ったのだ。
そのせいで妻は死亡し、アンヌも足に傷害を負った。
それ以来、アンヌは塞ぎ込んでしまったが、なぜかゴルフだけには興味を持ったそうだ。
いよいよ、ゴルフを楽しむときが来た。
まずは恭弥が、その腕前を披露する。
クラブを構え、派手にショット!
しかし、空振り…
ゴルフというより、野球のバットを降るようなスイングだった。
ラノック&アンヌが、ちょっとドン引きするほどの下手さだ。
「ハハハ、久しぶりなんで…」とごまかす恭弥。
もう一度クラブを振ると、今度はボールに当たったが、まるで明後日の方向へと飛んでいった。
思わず笑い出したアンヌに、「こらこら」と自分も笑いながら諫めるラノック。
恭弥は苦笑いしながら、「どうぞ笑ってください」と場を和ませた。
「君にも苦手なことがあったとはね」とラノック。
そしてラノックは、自分の腕前を披露した。
さすがにゴルフ好きだけあって、しょっぱなからナイスショットだ。
次にアンヌが、ちょっと長めのクラブを持って位置についた。
足が悪いのを感じさせないほど、見事なショットだった。
恭弥はここで、自分はついていけそうもないからと、降りる旨を伝えた。
アンヌはちょっと残念に思ったようだが、納得して親子で回ることになった。
これで警護に集中できる、と恭弥は表情を引き締めた。
1番ホール、2番ホール、3番ホールと、順調に進むラノック親子。
カートで移動する間に、茂みに隠れた護衛チームと連絡を取り合う。
やがて6番ホールに達したときに、恭弥は表情を鋭くした。
すぐ近くには潜伏に適した山があり、ラノックの周りは開けていて狙いやすい…
しかも、ゴルフの特性上、構えてから5秒ほど集中するため、動き(移動)もない。
オレが暗殺者なら、ここを選ぶ!
恭弥は無線を通じて、報告を命じた。
異常なし、との返答が来た。
ラノックのパッティングが終わり、アンヌが位置につく。
と同時に、恭弥がアンヌを守るような動作を見せた。
「キョウヤは警護人なの?」と、アンヌ。
これまでにも何度か守られてきたのだろう、恭弥が狙撃手の視界を遮ったと気づいたのだ。
「ただのくせですよ」と恭弥は気楽な感じで応えた。
そんな会話をするアンヌの頭を、茂みの中からライフルで狙う者がいた。
狙撃手だ!
その近くには、2人の警護人が血を流して横たわっている。
狙撃手が人差し指に力を込め、ライフルの引き金を引く!

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