暴力団たちと別れ、手や顔についていた血を洗い落とした恭弥が、待合室で休憩していた。
紙コップの飲み物をのみながら時計を見ると、もう10時45分。
ひとまず家に連絡しようと、受付の看護婦に携帯を借りた。
なんて言おうか迷っていると、自分がすっかり高校生になっていることに気づく。
電話に出たのは父だった。
やや強めの口調で、どこにいるか聞いてきた。
その後ろからは、母の心配する声が聞こえてくる。
話は家に帰ってきたら聞く、という父。
看護婦に電話を返し、歩き出すと、父と母の思い出がめまぐるしく脳裏をよぎった。
今の恭弥に生まれ変わって最初に会ったとき、車の隣に座っていた母、運転していた父。
泣きじゃくる母を慰める父。
入院した恭弥の元に駆け込んできた母。
事業に失敗しそうでうなだれていた父。
仲睦まじそうに、体を寄せ合う父と母。
廊下で屯していた暴力団に声をかけた恭弥は、着替えを頼んだ。
さらに、明日の10時にホテルで待ち合わせがあると、神代と五十嵐に伝えるように頼んだ。
何かあったらすぐ知らせることも。
ベッドで横になっていた母は、恭弥が帰ってくると知って、少し元気を取り戻していた。
恭弥のことがそんなに好きか? と父に聞かれ、
当たり前でしょ、と答える母。
父のスマホが鳴り、会社の者と通話を始めた。
父の発する言葉を聞きながら、不安そうにする母。
明日の午前10時に予定も入ったようだ。
そして最後に父は、「よくやった、ご苦労さん」と相手をねぎらった。
通話を終えると、放心状態になる父。
母に尋ねられた父は、50台分の契約金で、ゴント自動車の国内独占権を得られたと話した。
しかも、この先20年間も!
シープはもちろん、ゴント社で造られる全ての車が対象になる。
明日の午前10時に契約だ、と。
「でも、どうして?」と母も驚く。
「分からないが、恭弥のおかげらしい」
恭弥のおかげと知った父は、電話で恭弥にきつい言い方をしたことを少し悔いていた。
そこへ、恭弥が帰ってきた。
玄関まで出てきた両親。
母が恭弥の手を握り、何があったのと尋ねてきた。
ごまかす恭弥は、ちょっと困り顔。
リビングに移動すると、父は恭弥のおかげで契約できたことを知らせてくれた。
「いったいどうやったんだ?」と父に聞かれたが、
「人脈を利用して」と、恭弥はまたも困り顔でごまかした。
そんな恭弥に、母はガバッと抱きついてきた。
アバラを痛めている恭弥は、ちょっと苦しそうな顔を見せたが、震える母を見て表情を落ち着かせた。
母は恭弥に苦労かけてしまったことに、涙を流していた。
「オレはちょっと手伝っただけで、父さんのおかげです。契約のことより、母さんが元気なら…」
そう言いながら、恭弥も母を抱きしめた。
家族って、こういうものだったのか、と思いながら。
そのあと恭弥は、須賀先生が事故にあったため、お見舞いに行きたいと言い出した。
須賀先生の家族は地方に行ってて、看病する人がいないからと。
母は夜遅いからと反対するが、父が許可してくれて、一緒に外に出ることになる。
一服するために外に出た父は、ベンチに座ってタバコを吸い始めた。
暴力団の力を借りたのか、と聞かれた恭弥は、きっぱり否定した。
暴力団じゃ海外の会社は動かせない、と理由もつけて。
父は納得したが、それならどうやったのかと聞いてきた。
「シャフランさんのほうから話があったんです」と恭弥。
でも詳しい話は今度します、と言って、父の追求を逃れようとした。
「これ以上は嘘をつくしかなくなるけど、そんなことはしたくないんです」
すると父は、お礼だけ言ってそれ以上は聞いてこなかった。
エレベーターから恭弥が降りると、1人の暴力団が頭を下げてきた。
「いい加減、挨拶はやめろ」と注意する恭弥。
相手は「はい」と返事し、須賀の意識が戻ったと教えてくれた。
表情を明るくする恭弥。
引用:ピッコマ

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