第69話

エレベーター内で遭遇した男に、ただならぬ気配を感じる恭弥。

間違いなく、特殊訓練を受けて戦場に出たことのあるヤツだ。

恭弥は、戦場に行く傭兵が、どのように成長していくかを思い描いた。

初めて戦場を経験した新兵は、不安に取りつかれ、大きなショックをうけ、ストレスから周りを気にするようになる。

実践を重ね、生き残ることで、不安をかき消していくのだ。

すると次には、目をギラつかせて神経質になる。

仲間とちょっと肩をぶつけた程度でも、相手に殴りかかるほどに。

でも大抵は先輩のほうが強く、返り討ちに遭ってしまう。

そのような過程を経て、精鋭になってゆくのだ。

恭弥はその精鋭をまとめるリーダー格である。

精鋭中の精鋭といえるだろう。

そして今、エレベーターで背中につけた男からは、精鋭である雰囲気がありありと感じられた。

つまり奴も、恭弥が精鋭であると気づいているはず。

お互いに気づいていない振りをしているに過ぎない。

エレベーターの扉が開くと、恭弥と男は逆の方向に進んだ。

ある程度離れたところで振り返った恭弥は、「やるなら今か?」と思うが、ひとまずラノックに知らせることを優先した。

スマホを取り出し、ラノックに連絡を入れる。

「特殊訓練を受けたアジア人が、ホテル内にいます。場所を変えましょう」

恭弥はさらに、ラノックの身近なところに内通者がいるのでは?と疑念を口にした。

しかしラノックは、このまま恭弥と会う方向で話を進めてきた。

「どう考えても危険です」という恭弥。

「君がいる。守ってくれるんだろう?」

なんて図々しい、と思いながらも、恭弥は承諾した。

ラノックの考えでは、自分が囮になって内通者を炙り出せる、とのこと。

そんなわけで、30分後に会う約束をした。

松田の仕事場(事務作業する部屋)で、恭弥は部屋の変更を申し込んだ。

「お任せください」と松田。

松田は恭弥に、芸能事務所『DIファミリー』に所属する女優『如月薫』についての話題をもちかけてきた。

例の、姫野の大人バージョンだ。

松田いわく、薫には気をつけるように、とのこと。

薫は、有名な大物プロデューサーや大手企業の幹部と、このホテルに来るらしい。

「背後には大物がいる可能性があります」

表情を引き締めた恭弥は、「わかった」と答えた。

黒い車でやってきたラノックを、外まで迎えに出た恭弥。

部屋に移動して、会話を始めた。

ラノックいわく、北朝鮮が怪しい動きをしているとのこと。

恭弥は、シャフランの言葉を切り出した。

シャフランが、「ヨーロッパ全体の勢力図が変わる」と言っていたことについてだ。

「ことが大きくなり過ぎていて、オレの手に負えません。何か隠してるのなら、オレは手を引きます」

ラノックは、恭弥に対するこれまでの感謝を示した後、2つ頼みがあると言ってきた。

1つ目は、ドラマの制作発表をしてほしい、ということ。

どんな考えかわかりかねるが、恭弥は協力できることはしようと思い、承諾した。

ラノックは続ける。

「2つ目は、シャフランに私の動きを伝え、20億を受け取ってくれ」

驚く恭弥。

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