第102話

麻布西警察署にて、眼鏡をかけた謎の男にお礼をいう恭弥。

「ところで、あなたは?」と尋ねると、

「ただの公務員ですよ」と、その男は答えた。

詳しい話は車の中で、と言われたが、相手の素性もしれないのに、恭弥としては乗り込む理由もない。

そこで男は、2点だけ状況を口にした。

京極からのツテで、恭弥が警察署にいると知ったこと。

これから行く場所は、仁道病院であること。

前に京極から「紹介したい人がいる」と聞いていただけに、恭弥は納得した。

京極が入院している一室にて、恭弥は男から名刺を受け取った。

「内閣情報調査室に所属している、黒川尚人と申します」

京極いわく、自衛隊時代の戦友とのこと。

親しげに話す2人を見て、オレとダエルみたいな関係か、と恭弥は思った。

黒川は、内密の話があります、と前置きして、話し出そうとした。

恭弥は、ダエルのことを思い浮かべながら釘を刺した。

「オレにも戦友がいます。オレが知れば、ソイツも知ることになるでしょう。それが嫌なら、話さないでください」

「いいでしょう」と言って、黒川は話し始めた。

黒川いわく、ヨーロッパの派遣を握ろうと、フランスが動き始めている、とのこと。

恭弥の脳裏には北半球の図が浮かんだ(恭弥はすでに、情報をキャッチしていたらしい)。

ヨーロッパ各国からロシアを横切り、中国の東側までを結ぶ線。

ユーラシア大陸を横断する、超大規模な鉄道プロジェクト!

その名も、「Licorne」(フランス語でユニコーン)。

黒川いわく、ボスは恭弥のよく知る人物らしい。

「ラノックですね」

黒川はさらに、この計画における懸念点を話し始めた。

北朝鮮だ。

この国の内部では、プロジェクト賛成派(ロシア支持)と反対派(中国支持)がいる。

そしてトップに立つ人物は、どっちが得かを見極めるため、立場を表明していない。

「なぜオレにそんな話を?」

と尋ねる恭弥に、黒川ではなく京極が答えた。

「ラノックとの交渉役を引き受けてもらいたいんだ」

要するに、フランスと日本を結ぶホットラインになってくれ、ということだ。

恭弥にしてみれば、そんなつもりはまったくない。

「オレはホットラインにはなりません」ときっぱり言い放った。

表情を固くした黒川は、ちょっとした脅しをかけてきた。

「あなたはこの件から逃れることはできません。フランスはもちろん、各国があなたに注目していますからね」

フランスの脅威であったシャフランを恭弥が倒した噂は、どうやら各国に広まっているらしい。

面倒ごとを聞いた恭弥は、ひと息入れるため、自分でインスタントコーヒーを入れた。

黒川は恭弥に、助力を申し出る。

引き換えに、ドラマ放映権や特例での大学入学許可、多額の予算割り当て、さらにはあらゆる刑事責任を不問にするなど、さまざまな条件を持ち出して。

黒川は、胸ポケットから包みを取り出した。

利用上限のないカードが入っているから、好きに使って良い、と。

黒川はさらに、反ラノック派を一掃した恭弥とフランス大使との関係性は、各国からの注目の的である、という話もした。

包みを受け取らずにいた恭弥に向けて、京極が一言添える。

「もはや平凡な暮らしには戻れないだろう。なら、政府の保護と支援を得て動くほうが賢明だ」

それでも受け取らない恭弥に、黒川が言う。

「受け取ってくださらないと、上層部は西さんが何か企んでると判断しかねません」

この言葉にカチンと来た恭弥は、眉根を寄せて言い放つ。

「誤解されてもかまいません」

すかさず京極が、恭弥の気持ちをくんで発言した。

「君がそのカードを受け取れば、黒川は昇進できるんだよ」

恭弥は表情をゆるめ、それならとカードを受け取った。

黒川がお礼とともに握手を求めてきたため、恭弥はその手をがっしりと掴んだ。

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