第112話

ちょっとばかり頬を赤く染めた姫野が、うっとりした目で恭弥を見上げる。

「ご飯食べてかない? 奢るからさ」と、いつにもなく柔らかな表情で誘ってきた。

「用があるから、また今度な」

車道を走るタクシーを見かけた恭弥は、そそくさと退散して車に乗り込んだ。

取り残された姫野は、ちょっと不満げな表情を浮かべていた。

タクシーで移動した恭弥は、車を降りたあと、腕組みして考え込んだ。

まさかと思うが、違うよな?

あの姫野だぞ…

想像するだけで背筋がぞくっとし、考えまいとして店へと移動した。

予約の名前を伝えると、店員が奥へと案内してくれた。

そこにはすでに、京極、黒川、ダエルがメンツを揃えていた。

テーブルの前には、食事も用意してある。

ダエルの横に座ると、黒川がカードを差し出してきた。

「そのカードを見せれば、どんな機関でも出入り自由になります。協力の要請も可能です。警察や公務員といざこざになったら、そのカードを見せてください」

いろんな面倒をクリアするため、恭弥のカードは25歳の設定にしてあるそうだ。

黒川はさらに、ラノックとのゴルフについても話を進めて良い、と言ってきた。

二日ほど余裕を持って知らせてもらえば対応する、という感じで。

「警護は京極の会社に任せます」

隣に座る京極の背中を軽く叩きながら、黒川は続けた。

「ユニコーン反対派が活発に動いてます。内閣情報官を交代する話まで出ているので、我々の活動も制限され、警護支援に影響が出ないとも限りません」

そこでダエルが、なぜにユニコーンに反対する者がいるのか、と質問した。

国の発展につながるなら、応援したほうがいいじゃないか、という意見だ。

「経済的にはそうですが、政治的には違うんです」と黒川が説明する。

経済成長を続けると、今の政権への支持が続いて、政権交代が難しくなる。

それは、政権を交代したい立場の者たちには都合が悪い。

それに、周辺国からすると、我が国の発展は喜ばしいことじゃない。

「でも大丈夫です」と、黒川はビール片手に話をまとめる。

「我々がいるんですから」
恭弥は自宅で、父親といっしょにソファに腰掛け、テレビを見ていた。

アリオン代表のデイビッド大柴が逮捕された、というニュースだ。

容疑として、脱税、横領はおろか、脅迫や殺人教唆まで。

大柴とともに、女優の如月薫も、大柴に加担した容疑で逮捕されていた。

大柴の顔がひどく腫れ上がっているのを見て、父はちょっと違和感を覚えたらしく、

「逮捕の過程で、どれだけ殴られたんだ…」と大柴を憐れんでいた。

実は殴った張本人である恭弥は、ちょっと気まずい顔でごまかすばかり。

そこへ、明るい色合いのスーツを着込み、高級バッグを持った母がやってきた。

「あなた、行きましょう」

どうやら夫婦は、児童養護施設に向かうようだ。

運動部員たちが、校庭で手押し車をしている。

一人がもう一人の足を持ち、足を持たれたほうは地面についた両手を交互に前に出して進む、二人組になって行うトレーニングだ。

中でも鬼塚は、並々ならぬ思いで自分を追い込んでいた。

絶対にUBコップに入社してやる!

そんな意気込みがあるためだ。

いっぽう、恭弥だけは別メニューで、一人だけ鉄棒で懸垂運動をしていた。

ふと、ズボンのポケットに入れていたスマホが震え、通話に応じた。

ラノックからの電話だ。

「連絡をくれたのに、なかなか折り返せなくてすまない」

というラノックに、恭弥はさっそく要件を伝える。

「一日時間を取ることはできますか?」

「個人的な用なのかい?」

「ゴルフしましょう。安全なゴルフ場があるんです」

恭弥からの提案を聞いたラノックは、「まさかゴルフを楽しめるとは」と言って喜んだ。

日時は、月曜日の朝から、ということで話は決まった。

「その日、もう一人連れて行ってもいいかい?」

と尋ねてきたラノックに、「もちろんです」と、恭弥は快活に答えるのだった。

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