第37話

ダエルから、傭兵隊長として生きるのか、高校生として生きるのかを聞かれ、恭弥は黙り込んだ。

ダエルは、恭弥がどんな決断をしても従ってくれるという。

恭弥は胸の内で考えた。

シャフランへの復讐が済んだことで、学校の窓際の席で狙撃される心配もなくなった。

ジャングルや砂漠で、敵の攻撃を警戒しながら眠る必要もない。

殺す心配も殺される心配もなくなったのだ。

家に帰れば、裕福で優しい父と母もいる。

黙っていれば、今の人生は全て自分のものになる。

だが、と心で反発する自分もいた。

この西恭弥として生きる資格が自分にはあるのだろうか?

元の持ち主に返す手段があるのなら、迷わず返している。

もしそんな手段が見つからない場合は、どうすればいい?

あの2人を本当の両親と思っていいのか?

ある日突然オレがいなくなったら、父も母もどんなに悲しむことだろう?

ダエルに話しかけられ、自分の世界から戻った恭弥は、時間はあるんだからゆっくり決めよう、と結論を見送ることにした。

ダエルがいうには、後で妻が見舞いに来ると言う。

恭弥が妻に会うつもりなら、生徒として紹介する、と。

「よほどオレを生徒にしてえんだな?」と、やや不満顔の恭弥。

電話がなって、服の用意ができたと知らされ、恭弥はダエルの病室を出て行った。

家に帰った恭弥は、母の出迎えを受けた。

父の契約がうまくいった話をすると、母は恭弥の胸にそっと顔を埋めた。

「ありがとう、愛してる」と囁く母。

恭弥は、ちょっと疲れたから部屋で休むと言って、自分の部屋に向かった。

ベッドに腰掛けた恭弥は、この体の本当の持ち主に、心の中で話しかけた。

どうしてほしい? と。

答えなど返ってくるはずもなく、とりあえずベッドに横になって眠ることにした。

目を覚ますと、窓の外は夕焼けの空が広がっていた。

スマホを見ると、夕方6時だ。

届いていたメールに目を通す。

最初は「連絡待ってるっす」と、未登録でも誰なのかわかる一文だった。

ダエルに電話をかけると、学校から運動部の活動を休止すると連絡が来た、と伝えてきた。

顧問が入院しているためだ。

部活のことはもちろん、自分が授業に出なくちゃいけない心配をした恭弥だが、ダエルがすでに、恭弥も軽い交通事故にあったと報告してくれたらしい。

「気が利くな」と恭弥。

ダエルの復帰は2週間後になるそうだ。

次なるメールは、ミシェルからだった。

電話をかけた恭弥は、フランス語で心配しないように伝え、来週に食事を仕切り直す予約をして通話を終えた。

次のメールは、白井美紅からだった。

どうやって連絡先を知ったのか訝しむ恭弥だが、それよりメールの内容に「今からキョウ君の家に行くね」とあって面食らった。

電話して、怪我したことをなぜ知ってるか聞くと、「マネージャーだもん」との答えが来た。

マネージャーという立場を利用して、学校に問い合わせたのだろう。

恭弥は、怪我は軽いから家には来なくていい、と伝えようとしたが、もう到着するから3分経ったら出てきて、と言われた。

外に出た恭弥は、夕闇の中、ベンチに座る美紅を見かけた。

パーカーに短パン姿の美紅は、黒い私服に身を包んだ恭弥を見るなり、いきなり抱きついてこようとした。

しかし、よろけてこけそうになったため、恭弥が手首を掴んで支えた。

怪我の具合を聞いてくる美紅は、どこを怪我したか心配して、しつこく「見せて」と言ってくる。

恭弥は嫌がったが、結局美紅に手首を掴まれて、その拍子に顔と顔が近づいた。

美紅の心臓の音が高鳴り、その唇が恭弥に近づいてくる。

まさか•••

と恭弥が思った次の瞬間には、美紅のかかとが宙に浮かび、爪先立ちになっていた。

引用:ピッコマ

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