都会の夜を、恭弥を乗せた車がひた走る。
駐日フランス大使館に到着し、そのまま車は地下の駐車場へ。
なぜわざわざ地下に停めるのかと疑問を口にしたダエルに、恭弥は持論を述べる。
「この訪問は極秘だからな。人目につかないためだろう」
地下の駐車場に車が停まると、車を降りた恭弥たち。
ラノックの部下が、武器の所持を確認すると言ってきたため、恭弥は少し表情を厳しくした。
しかしそこへ、ラノックが登場。
「それは必要ない。彼らは信頼に足る人物だからな」
ラノックとダエルは初対面のため、恭弥が軽く紹介した。
フランスの偉い人物を前に、たじたじになるダエル。
ラノックに連れられ、まずは大使の部屋に向かうことになった。
テーブルには、まだ注がれていないティーカップが3つ用意されている。
ラノックから、話し始めた。
「君がフランス側の決定に不満があることは承知している。だが、それだけ重要な案件だったというのも理解してくれ」
黙って話を聞く、恭弥。
「私も所詮、国に従う公務員にすぎない」
すると恭弥のほうからも、ラノックに告げた。
「理解してます。でも同じく、大使もこちらの言い分を理解してください」
「もちろんだ。本当に申し訳ない」
そして恭弥は、シャフランの今後について尋ねた。
カップにお茶を注ぎながら、ラノックは答える。
「この大使館では、フランスの要員のほか、多くの日本人職員も仕事をしている。この件が漏れないよう、明日の明け方に送還する」
ラノックは恭弥に、お茶を差し出してくれた。
でも恭弥はそれを断り、まずはシャフランに会うのが先ですと意見を通した。
ため息をつきながらも、ラノックはその意見を受け入れてくれた。
導かれた先には、2人の要員が警護に当たっていた。
2人に下がるよう命じたラノック。
「ですが」と、軽く断ろうとした要員に、ラノックは表情を厳しくして言う。
「これは命令だ」
ラノックがスイッチを押して、部屋の扉を開ける。
中に入り込んだ、恭弥とダエル。
ズボンだけ履いて上半身は何も着ていないシャフランが、ベッドの上に横たわっていた。
酸素吸入器を口につけ、体全体がかなり痩せ細っている。
顔もどことなく、げっそりした様子だ。
手足や胴体などは、鎖などで繋がれてはいなかった。
恭弥を見るなり、シャフランはクククと笑った。
「ついに来たか。俺を殺しに…」
シャフランのセリフを遮るように、「もう充分です」と恭弥は言った。
そしてそのまま部屋を後にした。
恭弥の背中に向け、シャフランは怒鳴る。
「俺を殺しに来たんだろ?」
「殺す価値もない」
シャフランは悔しそうに目を鋭くしたが、体が言うことを聞かないのか、悶えることしかできずにいた。
今回の件について、恭弥たちの協力に改めて礼を言うラノック。
フランスに戻ってからも、恭弥にときどき連絡をくれるという。
情報共有も兼ねて。
そしてラノックは、恭弥にフランス帰化の話を持ちかけてきた。
自分はフランスでは影響力があるから、と。
「お気持ちだけいただきます」と恭弥。
ラノックは少し寂しそうに、しかし納得した様子で、「わかった」と答えた。
その後、車まで見送ってくれたラノックは、握手を求めてきた。
その手をがっしり握った恭弥。
恭弥たちを乗せた車が発進すると、ラノックは少し含みのある表情を浮かべ、フランス語でポツリと呟いた。
「また会おう、ムッシュ西」
運転手に命じ、途中で車を降りた恭弥。
ダエルも一緒に降りて、まだ家まで遠いのにと、ちょっと不平を言ってきた。
「ちょっと歩くたくなってな」と恭弥。
明け方の空は、明るくなりかけている。
大きめの川にかかった橋を、2人でゆっくり歩く。
ダエルは恭弥に、なぜさっきシャフランを殺らなかったのかと聞いてきた。
「ラノックもある程度黙認してたし、殺ろうと思えば殺れたんじゃ?」
「俺にもわからん」と恭弥。
「多分オレは、あいつとやり合って勝ちたかっただけで、抵抗すらできなあいつを殺りたかったわけじゃないのかもな」
ともあれ、戦いは終わった。
これからは気楽に過ごしましょうと、ダエルは言う。
2人並んで川に目を向けると、生まれ変わってからの記憶が溢れ出してきた。
前の体で、戦場で戦ってきたときのこと。
生まれ変わったばかりのころ、元の恭弥がいじめにあっていたこと。
母や美紅やミシェルなど、近しい間柄の女性たち。
スミセンとの格闘や、京極、ラノックとの出会い。
芸能事務所の代表に就任したこと。
首斬り屋との戦い。
ようやく終わったことを実感する恭弥。
ダエルもまた、こんなことを口にした。
「金ならあるんだし、好きなように生きましょう」
「そうだな」
その頃シャフランは、歯を食いしばって悔しがっていた。
恨みに燃え、恭弥の頭に弾丸をぶち込むことを誓いながら。

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