「ちょうどいいところがあるわ」というミシェルは、「愛子を覚えてる?」と聞いてきた。
シープの新車発表会でモデルを務めていて、恭弥とも挨拶を交わしたあの女性だ。
ミシェルが言うには、愛子にはとても才能があるのだけれど、所属事務所に力がなくてなかなか売れないらしい。
DIファミリーという所属事務所だ。
だからその事務所を恭弥が買収するのはどうか、とミシェルは提案してきた。
お礼を言う恭弥に、ミシェルはいつもの調子で「今からでもここにきて」と言ってきた。
恭弥もいつもの調子で電話を切った。
すぐにネット検索すると、愛子自身はそこそこメディアに出演しているようだった。
CM、舞台、ドラマの助演、イベントモデルなど。
しかし、SNSの『いいね!』の数は、芸能人の割にはパッとしない。
所属事務所もチェックすると、女優が3人いるだけの小さな会社である事がわかった。
とりあえず候補の1つにしようと考える恭弥。
そして、高校生の自分がどんな状況にあるのかを考えて、ふと笑う。
芸能事務所の買収も、フランス大使とサシの話し合いも、国際テロリストのターゲットになっている事も、尋常な状況ではない。
傭兵時代の方が平和だったな、と思いながら天井を仰ぐのだった。
それからしばらく、恭弥は平穏な日々を送った。
期末テストでは、白井美紅の凄まじい集中力を目の当たりにし、自動車教習所の実習では、指導員から運転の才能を認められた。
免許を取得したその日には、ダエルがシープに乗って迎えに来てくれた。
「まさか落ちちゃいないっすよね?」と軽口を叩くダエルに、
「なわけあるか」と恭弥。
ダエルの運転で食事に行く事になり、恭弥は助手席に乗った。
新しい車としてシープの最高級モデルを買ったダエルは、「気に入りましたか?」と尋ねてきた。
「この車はリーダーのものっす」とも。
免許取得記念にプレゼントしたいそうだ。
これは一千万円以上する高級車だと言って、受け取れねえと断る恭弥。
ダエルは、お金が入ったのはリーダーのおかげ、受け取ってもらえないとオレの気がすまない、と言う。
しょうがないから受け取る事にした恭弥だが、とりあえず卒業までは運転はお預けにした。
夜。
街中を歩く恭弥は、何者かに尾行されている気配を感じた。
シャフランか? とも考えたが、プロにしてはどこか甘い感じがする。
それなら山本組?
とにかく捕まえる事を決心し、しばらく歩いた後に、建物の間にある狭い通路に入り込んだ。
建物の影に隠れた恭弥は、すぐさま跡を追いかけてきたその人物の衣服を掴み、強引に地面に投げ捨てた。
地面に倒れた相手に一撃を加えようとしたが、それが美紅だと知って手を止めた。
膝をすりむいていた美紅は、「ひどいよ、キョウ君」と涙を浮かべて見上げてくる。
なんで尾行なんかしたのか聞くと、驚かせようと思って、と美紅。
「どうやって気づいたの?」と美紅に聞かれ、たまたまだ、と恭弥は答えた。
立ち上がった美紅は、テストに手応えがあったから、それを伝えようと思って恭弥の跡をつけたらしい。
自己採点したらひとつも間違いがなかったと。
自慢しにきたのか? と恭弥は思うが、どうやら違う。
ちょっともじもじしながら、美紅は続けた。
「ひとつも間違えてないってことは、他に満点とる人がいても同率1位だよね? でも今回のテストは難しかったし、たぶん私がトップだと思うの」
理解した恭弥は、美紅の言葉を遮って、おでこにキスした。
「今はここまでな」と、柔和な顔で美紅を見る。
でも心の中では、オレに近づくのは危険なんだよ…と思っていた。
引用:ピッコマ

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